セルフ セルフディスカバリー
参戦記
チームNo.64 CW-X
松葉桂二

【1 Stage MTB race summary】
午前6時、200名以上がバイクに乗り、滝越をスタート。 我がTeam CW-Xの山川(32)、孫崎(37)、松葉(47)とアトランタオリンピック、マウンテンバイク日本代表の A&F Briko CW-Xの小林チームとのデッドヒートは、スタート直後から熾烈だった。
トップスピードでも、自在にMTBを操るA&Fに対して技術より馬力で勝負の我々は、登坂時にプレッシャーをかける作戦を開始する。 相手の呼吸音を聞きながら、ショルダーtoショルダー、グリップtoグリップで接触しながらも、じわじわ至近を抜けてリードを広げていく。 「こっちは、キングオブ王滝や!登りでは負けへんでぇ〜」(松葉は、岐阜だが、なぜか関西弁) しかし、苦心の末、登りで100〜200m離しても元オリンピック+エリート軍団のダウンヒルスピードは、もの凄い! 孫崎、松葉は、ほぼ互角に戦っているものの、下りがまるっきり下手くそな山川サイドを次々A&F軍団にパスされると、抜かれる時の風圧で、よろけて崖下へあわや転落寸前。
「プレッシャーのかけ方は、相手の方が数段上手やでぇ〜」 それにも増して困った事態が発生・・。
山川のバイクのフロントデレイラーが故障したため、アウター1枚ギヤのみでの走行を余儀なくされている。
木曽原生林の野生サル応援団による、熱烈歓迎を受けながら走るステージ後半、 A&F軍団は、小林可奈子さんの技術とスピードについて行けないのか? バラケ始めてきた・・。とくに、元エリの旦那は、元オリの女房よりへばりが早そうだ。
我々は、ここをチャンスと見なしダンシングスパートして、数秒リードのまま、MTB30kmを終えトランジションへ。
こんなところで、ゴールスプリントして、何考えとるんや?と、思いつつも、単純な孫崎、山川、松葉は、 「よっしゃ!今のところトップやでぇー」と気勢を上げる。


【2 Stage Run race summary】
トレイルランは、小林率いるA&Fとほぼ同時スタートするが、三浦湖岸の林鉄軌道跡を懸命に逃げるうちに、後方から追いかけてくる気配は無くなり聞こえてくるのは、我々3人の息づかいだけとなる。
このような平坦道なら永遠に走り続けてもいいなぁーと思った瞬間、トレールは、無情にも左上へ折れている・・・。少し登ると、クマザサの刈り込んだ激坂が待っていた。 思っていたより、バイクステージで脚を使って来た孫崎か痙攣を訴えたため、山川に荷物を背負わせるように指示を出すとともに、自称登山家の松葉が、脚に乳酸がたまらない登り方をアドバイス。
3時間近く走り続けたところでは、エネギー補給も重要だ。 パワージェルと水で速攻チャージするものの、耐乳酸対策の登山技は、戦略的トップシークレットのため、非公開・・・時折、カモシカ避けのフェンスにしがみつきながら強引に登っていくと、滝川氏をはじめとするスタッフが上部林道で待っていて、上から声がかかる。
滝川:「松葉さ〜ん!いいルートでしょ?」 我々:「人殺し!こんな登り聞いてないよ・・・」
その後、ステージルートは、下り基調の林道から王滝川本谷左岸のジープトラックへと進むが、フルマラソンを2時間30分台で走る脚力を持つ山川は絶好調で、スピードをどんどん増し先行していく。
トップスピードに乗るランナー山川には、松葉も孫崎もいっぱい、いっぱいでどんどん置いて行かれる始末だ。
20kmは走っただろうか・・。やっと涼しげな谷の中へ降り立った。


【3 Stage River race summary】
15分のレスティングを済ませ、第3ステージへスタートするまさにその瞬間、石川プロ率いる混合チーム YINGENが、トランジションへ入ってきた。 後続との差は15分か・・。
王滝谷には何度も入ったことがあり、地形を熟知している松葉が先行し足跡を孫崎、山川がトレースする作戦で出発する。ウエットスーツを着ていても、王滝川の低水温に浸かれば、徐々に体力を失い、後半になってボディーブローの如く効いてくるは、長年の登山と沢遡行経験で分かっていたためほとんど濡れないルートを選択して下降して行くと今レース中、最も迷惑を掛けた動物(釣り人)に遭遇する。
釣人:「・・・どこから来たの?」
松葉:「滝越からです。まだ、後から200人くらい来ます・・」
釣人:「・・・? 200人? 上から?」
釣人:「もう釣りなんか止めて、帰えろ・・・」
それでも、先行している我々が下る渓谷の魚影は濃く、何度か大きなアマゴを踏みつけそうになるが、それにしても、Transcendは、沢の中でも滑ることはなく快適だ。スピードより、バイクとランで失った体力回復を図るとともに体力温存走法戦略のルートファインディングは成功し計算どおりにトランジションへ到着。
腹ペコ著しく、パワーバーに噛みつく。
水をゆっくり飲めるのも嬉しい。


【4 Stage MTB race summary】
濡れた下半身に冷気を感じつつもCW−Xのクールマックスは乾きが速く快適な感触。バイクに跨り坂を登っていくと向こうから、未だ第2ステージのランパートを戦っているチームがどんどん来るではないか!
すれ違いざまに、互い声を掛け合うものの、内心、彼らは明るいうちに、ゴールできないだろうと心配もよぎる。
夏のMTB100kmでは、快適に下った林道も標高1600mまで逆コースを登り返すには、骨が折れるが、このステージで後続を一気に離したいため、山川のバイクサドルにセットしておいた牽引ロープを使い、孫崎を引いていく戦術にスイッチする。苦しさのあまりか、時折、山川は、「う゛ぅぅっ」と動物的なうめき声をあげながら、立ちコギを交えて牽引して進むが、心配なのは、山川の体力が最後まで保たれるか?ということよりフロントアウターしか使えないため、リアをローで強引に踏むとチェン切れを起こすリスクが高い事だった。
それにしても、フロントデレイラー故障のまま、引き続ける山川の体力 「おそるべし!」。
長い、長い登りの後のダウンヒルセクションに入ると、いつしか、パンクの危険も忘れ、人車一体になり、無重力を楽しむかのようにチェックポイントへ落下していった。 第4ステージを終えて、バイクメータの合計は65kmを示し既に8時間が過ぎている。
昨年なら、とっくに競技を終了している時刻だ。


【5 Stage Climbing race summary】
登り初めのシャワークライムで、苔むしたスリッピーな岩場から、1.5mほど転落した山川は、滝登りにすっかりびびってしまったが、アイアンマンのみならず国内外のアドベンチャーレース百戦錬磨の孫崎は、いたって順調である。底知れぬ 孫崎氏のパワーに脱帽である。 前夜のブリーフィングでアスリート・クライムは苦しいとの説明があったが、登ってみると「楽しい」という形容詞しか例えようのないルートに喜々とする。薄暗い滝を登りながら後続を伺うが、気配は全く無い。
30分程のアドバンテージがあることを確認出来ると、一段と志気も上がり、大胆に全身を使って登高できる。
1時間足らずで一気に抜け、いよいよ最終ステージだ。


【6 Stage Run race summary】
最終ステージ前、3人は、入念にストレッチを行いスタート位 置につく。
5秒前、4秒、3、2とカウントダウンされるのがたまらなく嬉しかった。
我々は、勝利する権利を手中にしている・・・。
追っ手がケニア勢であるか、或いはクマに襲われるアクシデントでも起きないかぎり負けることは、あり得ない。
我々は、プロでもエリートでもない。 大きな大会で勝利する者が持ち合わせる類い希な資質と幸運。
しかし我々、山川、孫崎、松葉の3人にはそのどちらも、備わっていたわけでもない。 チームに貢献できるよう力を出し切ろう。
一人ひとりの長所で互いを補い合おう。 その気構えだけは、誰にも負けなかったのかも知れない。
ただ、それだけで、ここまで進んできた・・。
ジープトラック5km+舗装道5kmほどの最終ランパートでは、 2日前に生まれた山川の子供の話・・・
孫崎が樹立したアイアンマンの記録・・・
松葉が登ってきた氷壁のことなど軽口をききながら、進んでいった。
が、「・・?」「あの先に見える黒い動物ナニ?」
目撃した地点を通過すると、緑色をした大きな動物糞がコース上に落ちている・・。
「クマやでぇ〜!!」 ゴールは、確実に近づいている。
多分、エントリーチームの1割程度しか最終ステージに進めなかっただろう。 素晴らしいアドベンチャーステージ設定だ。
このような、勇気あるコースとステージ設定をした主催者パワースポーツと実行委員会に敬意を払うとともに、CW−X監督をはじめ、Transcendチームの仲間やレースに送り出してくれた家族に感謝しながら、ゴールテープを切った。
早朝6時に出発してから、10時間04分が過ぎていた。 (文責:松葉桂二)


「バイクは40才になってから・・・。エクステラのため、スイムは、今年から始めました。山ばかり登ってきた、自称登山家です。」 という、松葉さんの国内外での活動プロフィールを記します。(松葉さんの特製パンは本当に美味しい!!)


○ 氏 名  松葉 桂二 (まつばけいじ)  
○ 生まれ 1955年 岐阜県中津川市生まれ  47才  
○ 家 族  長女,長男と共働きの妻
○ 趣 味  MTB(マウンテンバイク)と自家製パンつくり
○ 著 書  岩登りの確保技術,山岳誌『岳人』,新聞他にエッセー連載